投資

今投資すべき航空会社はANAか、JALか比較検討してみた

はじめに

新型コロナウイルスの影響により国内航空会社の2大巨塔である全日空(ANA)と日本航空(JAL)の業績低迷が浮き彫りになってきています。(旅行好きの私としては悲しい限りです。。)

 また、業績低迷により両社の株価も20年1月に比べ40%近く低下しています。

 一方で中長期的な視点で見ればコロナによる移動の制約については緩和され、航空業界全体の景気が上向くことは想像に難くないことから、そろそろ株式の購入判断を下すタイミングが迫ってきていると考えています。

 本記事では、ANA, JALのビジネスモデルや財務基盤を比較・分析し、中長期的にどちらの株式を買うのが妥当か検討したので書き留めていきました。

 分析の前提としては、航空業界市場全体の問題であることから収益の落ち込みは両社に大きな差はないと考えます。

 株価の動きの要因としては

 ・財務リスク、

 ・今後の収益回復スピード

が大きな要因になると考えました。この事から投資にあたって見るべきポイントとしては下記2点に絞り分析を実施しました。

1.収益落ち込み後の回復が早いかどうか:事業売上高の比率から判断

2.倒産、財務リスクはないか:財務指標から判断

 上記2点の分析結果の結論から述べると

1.JALの方が収益回復スピードが早いと判断

2.JALの方が財務健全性が高いと判断

上記から現時点で投資対象として適切なのはJALであると判断しました。以降はこの分析内容の詳細について説明していきます。

概要

 まずANA, JALの業界内での位置づけをグローバルと国内に分けて見てみます。

ANA・JALの航空業界での位置づけ

グローバル売上

 まず、ANA, JALのグローバルでの位置づけを見てみます。売上高順に各航空会社を並べると下記の表のようになります。

引用(2020年1月時点):https://www.forbes.com/global2000/list/#header:revenue_sortreverse:true_industry:Airline

 ANAは世界の航空会社のうち9番目の売上高を誇り、JALは13番目に位置しています。世界の航空会社数は1407社(2018年9月時点)と言われていますのでANA,JALは世界で上位1%に入る売り上げを誇る航空会社といえます。

 ただし、利益について見るとJALのほうがANAよりも稼いでおり、グローバルでみてもJALが8番目、ANAが9番目に位置する関係となります。

国内売上・シェア

 ANAとJALの日本国内線(旅客)の売上とシェアは下記のようになっており、ANAが売上、シェア共に勝っています。ただ、LCCの台頭で徐々にANAやJALの国内線シェアは落ちてきている状態です。

ANAとJALの国内線シェア比較

引用:https://www.ana.co.jp/group/investors/irdata/annual/pdf/19f/19_F_00.pdf

 一方で両社の路線数(コードシェア便含む)についてはANAが137路線(19年7月時点)、JALが145路線(19年3月時点)となっており、JALの方が就航路線数が多くなっています。

アライアンス 

 航空会社を分析する上ではアライアンスの存在についても無視できません。

 アライアンスに加入することで、自社で就航してない路線のうちアライアンス内の他航空会社が持っている路線をコードシェアなどの共同運航を実施することが可能です。これによりコストを掛けずに路線の拡充ができるなどのメリットがあります。

 主要なアライアンスとして、スターアライアンス・ワンワールド・スカイチームの3つのアライアンスがありANAはスターアライアンス、JALはワンワールドというアライアンスに所属しています。

 各アライアンスの旅客シェアとしては下図のようになっており、スターアライアンスが最もシェアを獲得しています。

航空業界アライアンス 国内線・国際線シェア

引用:https://www.ana.co.jp/group/investors/irdata/annual/pdf/19f/19_F_00.pdf

ビジネスモデル

 続いて両社のビジネスモデルの違いについて分析します。ビジネスモデルの差から新型コロナウイルスが及ぼす両社事業へのインパクトを推察していきたいと思います。

事業ポートフォリオ

 ANA,JALの決算資料から抜粋した各事業分野別の2018年度売上高は下表の通りです。

引用1(ANA売上高):https://ssl4.eir-parts.net/doc/9202/tdnet/1821857/00.pdf

引用2(JAL売上高):https://www.jal.com/ja/investor/library/results_briefing/pdf/fy2019q4_0331ja.pdf

 事業領域は両社に大きな違いはありません。しかし各領域の売上比率を見るとJALのほうが旅客事業以外の比率が大きいことがわかります。今回コロナウイルスによる影響を大きく受ける領域としては旅客事業であると考えられるため、旅客事業以外の領域の比率が高いJALのほうが業績悪化の影響は比較的小さくなる可能性があります。(無論その他についても旅客便減の影響は受けると考えられますが両社で落ち代は大きく変わらないと考えています。)

財務分析

最後に両社の財務データを比較し、財務健全性について考えてみます。下表に財務諸表から抜粋した項目を記載します。今回確認した指標としては現預金残高 / 販管費比率と流動比率・固定比率の3項目です。

現預金残高 / 販管費比率

 まず現預金残高と販管費比率について見てみます。この指標は企業の体力を表します。

 今回のコロナウイルスの一件では運行便数が著しく減っています。しかし運行便数に関わらず販売費・一般管理費は一定額発生します。このキャッシュアウトに対しどれだけ現預金・預金を持っているかを確認することで今回の営業縮小にどの程度耐えられるかを推定できると考えられます。

 具体的には、100%以上であれば現預金が販管費を上回っているため、短期借り入れ金の返済など特別な出費がなければ1年程度は無収入でも耐えることが可能であると考えられます。

 ANAとJALで現預金残高 / 販管費比率を比較するとJALは140%で100%を超えているのに対し、ANAは36%と100%を大きく下回っており今年度のキャッシュアウトに耐えるのが厳しい可能性があります。ANAが1.6兆円近い融資を要請した理由は上記のような背景があるかもしれません。なお、販管費には固定費と変動費(燃料費など)が含まれているため営業縮小により変動費も縮小します。そのため販管費自体も記載の金額よりは小さくなりますので必ずしも危険な状態とは言い切れません。

流動比率

 次に流動比率、固定比率について見てみます。まず流動比率(流動資産 / 流動負債)は、1年以内の支払債務と現金化可能な資産の比較です。この比率が100%以上あれば短期的な支払いには困らないと考えられます。流動比率についてはANA,JAL共に100%以上となっており、1年程度であれば返済に窮する可能性は低いと考えられます。

固定比率・固定長期適合率

 次に、固定比率(固定資産 / 自己資本)はどれだけの長期投資(固定資産)を借入ではなく返済義務のない自己資本で賄えているかを表し、固定比率が100~120%を下回れば財務上安全な水準と言われます。

 2社を比較するとJALは安全圏であるのに対し、ANAは長期投資を自己資本とほぼ同等の借入金を注入して賄っていると言える水準で注意すべきかと思われます。

 一方で固定比率と併せて見ておきたい指標としては固定長期適合率というものがあります。固定長期適合率は

固定資産 ÷ (自己資本+固定負債)

で計算されます。(分母と分子が逆転したものを固定長期適合率と言っている場合もあるので注意してください。)自己資本と固定資産のバランスだけを見る固定比率に対し、固定長期適合率は自己資本に固定負債を加えた金額と固定資産とのバランスを表す指標です。固定比率が100%を大幅に超えていた場合も、固定長期適合率が100%を下回っていれば財務状況は比較的安全だと考えられます。これは固定資産を賄う負債が短期返済義務の無い固定負債と自己資本で占められているのであれば短期的に経営を脅かすものではないと判断できます。

 ANA,JALの固定長期適合率をみると共に100%を下回っており、安全圏といえる水準です。

まとめ

○ANA,JALの業界内での立ち位置

 ・グローバル売上高ではANAがJALよりも高いが、利益率ではJALの方が勝っている。

 ・国内線売上、シェアはANAがJALよりも多く獲得している。

○事業ポートフォリオ

 ・ANAは売上高比での旅客事業構成比が高いことから新型コロナの影響をJALよりも大きく受ける可能性があり、収益の回復スピードはJALのほうが早いと判断できる。

○財務状況

 ・ANAは現預金残高以上のキャッシュアウトが発生する恐れがある。現在要請中の融資によりこの不足分は賄うと考えられる。

 ・JALはキャッシュアウトを手持ちのキャッシュで賄うことができる水準にある。

 ・流動比率、固定比率の観点では財務の健全性はJALの方が高い。

 ・流動比率、固定比率から判断すると両社ともに1年以内の財務は安全と言える。ただし、この状況は1年以上長期化する恐れが十分にあるため財務状況は引き続き注視する必要がある。

 上記の分析から短中期目線であれば財務上の安全性が高いJALが投資対象として適している可能性が高いと考えられます。